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仙台短編文学賞受賞式開催 ~震災を経て実を結ぶ~

 第1回「仙台短編文学賞」の授賞式が先月7日、河北新報社別館ホールにて行われた。会場には各賞の受賞者の他、多数の報道陣や文学関係者が出席した。「この日を迎えることができて非常に感慨深い」。仙台短編文学賞実行委員会代表を務めた土方正志さんは初めに、同賞が設立されるまでの経緯を振り返った。




 「仙台に文学賞を」と2010年の秋頃に、仙台の出版関係者の間で話が持ち上がった。そして、賞の方針を決める最後の打ち合わせが行われたのが、11年3月10日。その日の夜は、国分町で関係者の飲み会が行われ、祝杯を挙げたという。しかし、その翌日東日本大震災が起こり、文学賞の企画はそのまま立ち消えとなった。

 それから7年という月日を経て設立された「仙台短編文学賞」。集まった作品の約8割は、震災の影響を受けたものだったという。土方さんは「震災後7年間を凝縮したような作品だった。書き手の静かな息遣いや鼓動を感じることができた」と述べ、「来年の継続も決まっている。震災の文学賞があってもいいのではないか」と力強く話した。

 応募作品576編の中から大賞に選ばれたのは、岸ノ里玉夫さん(58)の『奥州ゆきを抄』。語り手の「私」は、戦前に途絶えてしまったとされる奥浄瑠璃の復活を企て、後継者である桑島市龍の行方を追い求める。鎮魂のための伝統芸能を交えながら、昭和初期の三陸地震に始まり阪神淡路大震災、そして東日本大震災へと続く過去の災害の記憶が風化されていくことについて、疑問を呈する作品である。

 大阪府在住である岸ノ里さんは、高校教師の傍ら小説を執筆しており、三咲光郎名義で多数の著作を発表している。23年前の阪神淡路大震災を経験した際に、「震災について書かなければならない」という思いを抱くも、なかなか言葉が浮かんでこなかった。小説を書き上げたのは阪神淡路大震災が起こった7年後であった。その後、その小説を担当した東京の出版社とやり取りをするうちに、関西と東京での震災に対する気持ちの違いを感じ、災害の記憶の風化を思い知ったという。岸ノ里さんは、「震災の体験が深く心に沈み、言葉として浮かび上がってくるには時間がかかる。しかし、その浮かび上がった言葉が、震災の風化に抗う一つの文化となって人の心を結び付ける」と語った。

 選考委員を務めた仙台市在住の作家・佐伯一麦さんは『奥州ゆきを抄』について、「松尾芭蕉の俳諧に通じるような、いい意味で軽みのある作品」とし、一人語りの妙味や、題材とした伝統芸能の取り入れ方を高く評価した。また賞全体の講評として、「震災によって変化を余儀なくされた人々の強い願いが作品に反映され、多数の応募に結び付いたのではないか」と述べた。

 第2回の募集は、今年の夏頃に開始する予定だ。選考委員は、仙台市在住の直木賞作家・熊谷達也さんが務める。熊谷さんは「どんな作品が応募されてくるのか、とても楽しみ。選考が待ち遠しい」と話した。また同賞では、学生を対象とした「東北学院大学賞」も設けられている。応募に挑む学生に向けては、「小説に正解はない。技術を意識するよりも、自由に書きたいものをそのまま書いてほしい」とエールを送った。
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