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【書評】『1Q84』 村上春樹 新潮社

 人生のリセット――その言葉に皆さんはどのような印象を抱くだろう。これまで築いてきた生活スタイル、人間関係を帳消しにしてゼロから築き直す。リセットという言葉にはしばしばマイナスのイメージが付随するきらいがある。




 村上春樹の小説を読んでいるとこの「人生のリセット」という言葉が大きなテーマになっていることに気づく。そして彼の代表作の一つであるこの本はまさに新たな自分を求めて人生のリセットに命を懸ける男女の姿が詳細に描かれている。

 1984年を生きている青豆と天吾は互いを求めながらも決して出会えない、そんな生活を繰り返していた。それがあることがきっかけとなって彼らは別の世界に送り込まれてしまう。その名は「1Q84」年。新たな世界で彼らはさまざまな困難に立ち向かいながら少しずつ距離を縮めていく。

 ここで大事なのが彼らは1Q84年に送り込まれた―いわば受動的に―のに対してその世界で彼らは能動的に互いを探し求めたということである。この「受容」と「能動」の関係がこの小説の大きなポイントだ。

 我々が住む現実の世界に1Q84年のような別世界は当然のことながら存在しない。しかしながら、似たようなことは現実にもありうる。大学に入学する、新しくバイトを始める、会社に就職する……などなど。別の言い方をすればこの1Q84年という世界は、個々人がこれから入っていく新たなコミュニティーとでも言えそうだ。

 新年度に入って新入生の諸君はこれからどんなことをしていくか思案していることだろう。また2年生以上の君たちも1年の節目、新しくバイトを始めたり研究室に入ったり、さまざまな「1Q84年」を思い浮かべているに違いない。

 しかし覚えておいてほしい。新たなコミュニティーでどう活動していくかは自分自身にかかっているということを。どのようにして―それが受動的であれ能動的であれ―新しい世界に足を踏み入れたとしてもたどっていく道は本人の気持ちににしか依存しないのだ。

 1Q84年を輝かしいものにできるか、それは君たち一人ひとりの手に委ねられている。
文芸評論 6023184822186633494
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