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【ニュース】大渕憲一名誉教授 紫綬褒章受章 ~「公正の絆」解明を評価~

 文学研究科の大渕憲一名誉教授が平成28年秋の叙勲で紫綬褒章を受章した。紫綬褒章は科学技術分野における発明・発見や、学術およびスポーツ・芸術分野における優れた業績に対して授賞される。文学研究科では40年ぶり2人目の受章となった。




 大渕教授の主な功績として、実証研究を通して攻撃性のメカニズムを明らかにしたことと、「公正の絆」を検討し人々の公正感を解明したことが挙げられる。また、犯罪心理や紛争解決などの応用研究において司法専門職の養成や、弁護士・行政書士などの紛争解決実務家に対する支援を行ったことも評価された。

 攻撃性とは、暴力や虐待などの身体的攻撃と、口論や確執などの言語的攻撃の背後にある心理過程である。大渕教授は過去100年間の関連研究を分析し、攻撃性に対し三つの理論的立場を展開。それらのうち、有力と思われる「情動発散説」と「社会的機能説」を基礎に攻撃性の2過程モデルを提唱した。

 「情動発散説」は攻撃行動を不快な感情の発散・表現とする立場で、「社会的機能説」は戦争やテロ事件のように、攻撃を問題解決の手段とする立場である。前者は衝動的攻撃性、後者は戦略的攻撃性を生み出す心理過程の特徴を表すもので、攻撃行動はこの2過程を通して発生することが実証された。

 大渕教授は基礎研究として攻撃性を、応用研究として犯罪心理と紛争解決をテーマとしていたが、攻撃性と紛争解決にまたがる公正・正義を新しいテーマに挙げた。「人間は自分と無関係の出来事に対しても、不当であるとして不快感や反感を抱くことがある。それは人間が公正・正義を求める気持ちを持っているからだ」と大渕教授は語る。

 公正・正義へのアプローチは他の人文社会科学で古くから議論されてきたが、心理学における公正研究の歴史は40年ほど。他の学問での研究が「客観的公正研究」と呼ばれ、普遍的な正義を探求していたのに対し、心理学における研究は「主観的公正研究」と呼ばれ、一般市民の正義感や社会現象としての正義に焦点を当てる。大渕教授は「民主化された市民社会ではどんな法律や制度も市民の正義感と合致しなければ存在・機能しえない」と話す。公正心理学が誕生した背景には、行政や民間企業を含む社会組織を円滑に運営するために不可欠とされる一般市民の正義感・公正感に対する関心がある。

 公正心理学の主要課題は二つある。一つ目は人々がどのような心理過程を経て公正感を感じるか、二つ目は公正判断が人々の態度・行動にどのような影響を与えるかである。大渕教授は後者を主に研究対象とした。

 人々が不公正感を感じた時、不満や敵意などのネガティブな反応をすることは実証されていたが、公正感を感じた時に人々に何が起こるかは未知であった。そこで大渕教授が提唱したのが「公正の絆」仮説である。

 資格条件と呼ばれる業績、成員性、ハンディキャップなど自らの属性に対して、ふさわしい処遇を受けていると感じた時、人々は公正感を持つというのが心理学における公正の定義である。例えば努力した分の報酬がもらえる、自らの障害に見合った支援が受けられるという時、人々は公正と感じる。企業や国などの組織において人々が公正感を持つと、「自分はこの集団の一員だ」という強い所属感や、「この集団の一員であり続けたい」という強い所属意欲を持つようになる。これらは新組織的態度と呼ばれる。

 新組織的態度は利害関心の要素が強い功利的絆と情緒的要素が強い情緒的絆から成る。新組織的態度は、組織志向行動と呼ばれる、組織のために尽くそうとする行動を促す。すなわち「公正の絆」仮説とは、所属集団に対する公正感が、その集団に対する肯定的な態度・行動を引き起こすというものである。以上が大渕教授によって解明された「公正の絆」の心理メカニズムである。

 大渕教授は今回の受章について「研究に協力してくれた学生たちや内海外の共同研究者と一緒に喜びたい」と話す。「公正の絆」を通した人々の公正感の解明により、一般市民の公正感の重要性が再認識されることが期待される。
受賞 1721176795921795030
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