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【研究成果】新開発コイル搭載MRIで高精細画像の撮像に成功 ~液体ヘリウム枯渇対策へ~

 三菱電機株式会社、京都大学の白井康之教授、中村武恒准教授、工学研究科の津田理教授(写真)、宮城大輔准教授らは、液体ヘリウムを必要としない高温超電導コイルをMRIに搭載し、世界初の磁場強度3テスラでの撮像に成功した。磁場強度が高いMRIにより、高精細な画像診断が実現し、病気の早期発見が期待できる。




 現在、商用MRIには超電導線をマイナス269度の液体ヘリウムで冷却する低温超電導コイル方式が用いられている。しかし、新興国の発展により液体ヘリウムの需要が増加。また、そもそもヘリウムガス田の数が少ないため、将来ヘリウムガスが枯渇するという懸念があった。そこで、三菱電機が経済産業省のプロジェクトの下、液体ヘリウムを必要としない高温超電導線を用いたコイルの設計・製造に着手することとなった。

 今回、技術が確立された高温超電導コイルでは、マイナス179度以下で電気抵抗が0になる超電導線を使用。これにより、超電導線の冷却に、液体ヘリウムを使用する必要が無くなった。

 開発において本学が担当したのは、超電導コイルの磁化による磁場乱れ対策の実測評価だ。MRIでの撮像に必要なのは、時間的・空間的な磁場の均一性だ。導線に抵抗があったり、高温超電導コイルに流す電流の大きさが変化したりすると、磁場乱れが発生してしまい、正確に撮像ができなくなる。これまでMRIでは、ある一定の値まで温度を下げると電気抵抗が0になる超電導線を用いることで正確な撮像を可能にしてきた。一般的なMRIで用いられる低温超電導線は、直径が1ミリ程度の丸形だが、今回用いた高温超電導線は幅が4ミリから5ミリ、厚さが約0・2ミリの薄いテープ状だ。同じ断面積で低温超電導線より大きな電流を流せるのが利点だが、欠点が二つ存在する。

 一つ目は、高温超電導線が、セラミック系の材料から成り、結晶方位の揃った超電導膜を作る必要がある関係で、テープ状になっていることである。このため、高温超電導コイルの作製には、カセットテープのように超電導線を巻きつける作業が必要となる。

 二つ目は、電流を流すと、テープ状の超電導線の周りに磁場が発生し、遮へい電流と呼ばれる電流が流れてしまうことである。この遮へい電流は、時間とともに変化するため、磁場の均一性を維持するのが難しい(必要となる一時間あたりの磁場変化量は発生磁場の百万分の一程度以下)。

 「磁場の均一性を実現するのに苦労した」と津田教授は語る。超電導コイルで発生する遮へい電流は、コイルの形状だけでなく、コイルに流す電流の大きさやコイルの温度により異なる。津田教授らは超電導モデルコイルを用いた実験と解析を通じて、遮へい電流特性を明らかにし、遮へい電流による磁場乱れを抑えることに成功した。これにより、病院などで用いられているMRIと同程度の磁界強度の均一性を実現することができた。

 また、今回の撮像では、磁界強度を従来の1・5テスラから2倍の3テスラに引き上げた。磁界強度が高くなると撮像の解像度も高くなるが、その分磁場の均一性を保つのも難しくなる。磁場強度が高くなり、磁場が大きくなるのに比例して遮へい電流も多く流れてしまうからだ。この遮へい電流の影響で、磁場の空間的均一性を実現するのも容易ではなかったが、小さな鉄の塊を用いて磁場の分布を微妙に調整。そうすることにより、磁場分布を補正し、均一な磁場空間を作ることに成功した。

 この成果は「第93回低温工学・超電導学会研究発表会」で公表された。今後、高温超電導コイルはMRIだけでなく重粒子線を用いたがん治療装置や、リニアモーターカーにも応用されるという。津田教授は今後の展望について「MRIの発展は、超電導応用技術の発展でもある。早い時期に実用できるよう頑張りたい」と意気込んだ。
研究成果 3147057939547448927
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