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【論点】法学研究科水野教授に聞く 夫婦同氏再婚禁止期間 ―家族法改正の必要性―

 今月16日に、夫婦同氏(姓)と再婚禁止期間についての最高裁判所の判決が出される。民法750条は「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定め、民法733条1項は「女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない」と定める。原告は、これらの規定が憲法の保障する婚姻の自由や法の下の平等に違反すると訴えている。
 これらの問題について家族法が専門の、法学研究科の水野紀子教授に話を伺った。




―夫婦同氏について

 氏は、歴史的には血統や家族集団を表す機能を持ち、各人を識別するだけでなく、その人にとってのアイデンティティーの基盤であり人格権としても重要なものです。婚姻をした証として配偶者と氏を同じくしたいという人がいる一方で、自分の氏を変えたくないという人も少なからずいます。このような人の人格権を侵害してまで夫婦同氏制を維持する意義はないと思います。

 現在の夫婦同氏制は形式的には男女平等ということで長年批判を免れてきました。しかし、結婚と引き換えに氏の喪失を強制するのですから深刻な人権侵害です。女性が職業人として働く現在では、改氏による職業上の不利益も少なくありません。もっともその不利益は、旧氏の使用を通称として認めることである程度は軽減されますが、戸籍上の氏名でなければならない場合(銀行通帳、パスポート等)も多く、通称使用による解決には限界があります。そもそも、意に反して氏を変えさせられること自体が問題ではないでしょうか。選択的夫婦別氏制とは、結婚する夫婦が夫婦の氏を同じくしたいという選択肢を否定することなく、氏を変えずに結婚するという選択肢も認める制度です。


―再婚禁止期間について

 この規定は「婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子」を夫の子と推定するという嫡出推定を定めた民法772条により、離婚後に出生した子の父が前婚の夫か後婚の夫かが決められるように設けられた規定です。6か月という機関の立法理由は、懐胎してから半年たてば妊娠が外見上分かるようになるからというものです。現在ではDNA鑑定によって生物学上の父子関係の存否は容易に調べられるので、この規定は不要ではないかといった批判があります。

 しかし、嫡出推定は法律により安定的な父子関係を確立し、父による子の養育を保証するための制度です。父子関係をいつでもDNA鑑定によって覆すことができると、この利益を害するおそれがあります。もし調べた結果どちらの夫の子でもないことになったら、どうするのでしょうか。法律上の親子関係は、血縁関係という生物学的事実とは一応独立に尊重されるべき関係なのです。諸外国の立法や判例でもDNA鑑定の結果のみによって法律上の父子関係の否定を認める例はありません。親子関係を否定する訴えには、提起期間や提訴権者などの制限をつけています。

 もちろんこの規定は改正されるべきです。嫡出推定の重なる期間に生まれた子を後夫の子とすれば、再婚禁止期間は不要になります。平成8年の法制審議会の民法改正答申は、親子法の改正をしない前提でしたので、嫡出推定による父性推定の重複を避けるための最小限の100日に短縮しています。日本の協議離婚制度と異なり、離婚手続きが欧米法のようにすべて裁判離婚であれば、離婚の際に対処する立法も可能でしょう。いずれにせよ、この規定は嫡出推定制度と関連しているのでただ廃止するだけでは解決になりません。


―司法による判断について

 平成8年の選択的夫婦別氏制の導入などの民法改正案は、国会提出には至りませんでした。これらの制度の見直しは本来立法によることが望ましいのですが、立法による改正が停滞している今、司法の判断による是正もやむをえないのかもしれません。特に、夫婦同氏制は、司法判断によってでも早急に是正される必要があると思います。
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