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【研究成果】大腸菌べん毛 回転向き制御機構 解明 ~長年の仮説 裏付け~

 大腸菌のべん毛を回転させるモーターの回転方向を制御する仕組みを、本学多元物質科学研究所の福岡創助教と石島秋彦教授らが、生きた細胞を用いて観察し、長年信じられてきた仮説を証明した。




 単細胞生物である大腸菌は、細胞表面にらせん状の繊維であるべん毛を数本持ち、これをスクリューのように回転させて水中を泳ぐ。この回転は細胞膜に埋まったべん毛モーターによって生み出される。多くのバクテリアは周囲の化学物質の濃度に応じてこの回転を制御して、より良い環境を求めて移動する性質を持ち、この性質は走化性と呼ばれている。

 化学物質の濃度を知るためのセンサーは走化性受容体と呼ばれており、細胞の極にクラスター(集団)化されている。そこで得た情報は、大腸菌内の情報処理・伝達システムでべん毛モーターまで伝えられ、最終的に回転を制御する。

 この過程において、情報は、受容体クラスターでリン酸化CheYというシグナル伝達タンパク質へと変換され、細胞内を伝わり、べん毛モーターに結合することで回転方向を制御すると考えられてきた。モーターはリン酸化CheYが結合すると時計方向に、解離すると反時計方向に回転するとされていた。この仮説は長く信じられてきたが、直接的な観察はされていなかった。

 今回の研究では、遺伝子組換え技術によって、細胞内で生産されるCheYを、それに緑色蛍光タンパク質(GFP)が結合したもの(CheY-GFP)に置き換えた大腸菌を用いた。これによってCheYは緑色蛍光を発するようになり、その細胞内での位置が観察できるようになっている。またその蛍光の観察と通常の明視野観察を同時に行える顕微鏡システムも開発し、CheY-GFPのふるまいとべん毛モーターの回転を同時に観察できるようにした。

 観察の結果、べん毛モーターは、リン酸化CheYが結合すると時計方向へ回転し、解離すると反時計方向への回転を起こすことが確かめられ、仮説は実証された。また分析の結果、べん毛モーターに最大34分子結合できるとされるリン酸化CheYが約13分子結合すると、モーターが時計回転することも分かった。加えて、モーターの回転方向が変わる際のリン酸化CheYの結合または解離は非常に速く、連鎖的な結合や解離が起きている可能性も示唆された。回転方向によってリン酸化CheYの結合のしやすさも異なり、時計回転するモーターにはさらなる結合が起こりやすく、反時計回転するモーターには結合しにくいことも分かった。

 教授らは、「バクテリアは、考えて行動する最も小さい生き物の一つであり、それを担っているシステムの一つが走化性システムだ。大腸菌ではどんな分子がシステムを構成しているかが明らかになっている。そういった興味深い生物を用いて、(脳科学などに対して)より単純な側から生物の普遍的な仕組みを明らかにしていきたい」と語った。大腸菌を覗く顕微鏡は、巡り巡って我々のからだを覗いている。
研究成果 2684186850925410812
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